学長からのメッセージ Message from the President

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未来のために

「清風館」の外壁に埋め込まれた銘板に、「大学は学問と教育と深い友情とを発見する場所である。」という言葉が刻まれています。これは、初代学長岡本清一の言葉です。食堂前の広場で親しまれている「自由自治」の石碑に比べると、この銘板を知っている人は少ないかもしれません。
 
さて、「学問」とはなんでしょうか?
それは、ある人がその可能性を追求し、極めることを意味します。たとえば、文字を通して蓄えた知識をもとに考え抜き、その結果を文章で表現すること。あるいは音の世界に無心に浸りきり、そこから新しい音と出会い、表現すること。色彩と造形の世界に心身全体で感応し、感じとったものを新しい方法や様式で表現すること。日常世界の背後に潜む本質や世界観を見いだして、描線やストーリーで表現することもあるでしょう。
 
みなさんが自らの可能性を追求し、広げていくこのような苦闘を、促し、励まし、導く試みをわたしは「教育」と呼びたいと思います。では、同じ人間であるはずの教職員が、みなさんを教育することができるのはなぜでしょう。それは、わたしたち教職員も、学生のみなさんと同じような悩みや達成という経験をしてきたからです。その経験をもとに、あなたが感じているはずの希望や困難に、共感することができるからです。
 
この京都精華大学という場所でみなさんは、同じ場所で、それぞれが似たような経験をし、努力を積み重ねていきます。そのなかで、自分とは生まれも育ちも、場合によっては国籍も異なる「他人」に出会います。わたしたちが幼い頃に友だちと遊ぶ中で言葉を身につけたように、みなさんは学友とのつきあいのなかで「人生の作法」を身につけ始めるはずです。そこには金銭的な損得や、地位の上下も関係ありません。そんなことは当然だと思われるかもしれませんが、大学時代がそのような「友人」を得る最後の機会になることが多いのです。このような人間関係は、お互いの人生に浮き沈みがあったとしても、その根っこが揺らぐことはないでしょう。そういう意味で、一生続く「深い友情」を発見できるかもしれません。
 
これら3つのことを発見するのは、もちろんあなたです。あなた方が自力で、3つのうち1つでも見出されることを願っています。本当に見つけたかどうかご自分でわかるのは、卒業してから何年もたった頃になるでしょう。
その日のためにこの大学は存在しているのです。

澤田 昌人 SAWADA Masato

所属
・国際文化学部 グローバルスタディーズ学科 アフリカ・アジア文化専攻
・人文学部 総合人文学科 社会専攻
・大学院 芸術研究科
学長任期 2022年4月1日~2026年3月31日

京都大学理学研究科博士後期課程修了。理学博士。山口大学教育学部講師を経て、本学に赴任。アフリカ熱帯雨林に住む狩猟採集民、農耕民の世界観についての研究、および中部アフリカの現代史に関する研究を行っている。「世界観の植民地化と人類学——コンゴ民主共和国、ムブティ・ピグミーにおける創造神と死者」、「コンゴ戦争の和平交渉における停滞と他国からの政治的影響」などの論文がある。