アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで54年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
2022年7月14日(木)は、本学大学院芸術研究科教員で美術史家の岡田温司が講演。岡田は、第13回吉田秀和賞を受賞した『モランディとその時代』(人文書院)や第60回読売文学賞(評論・伝記賞)を受賞した『フロイトのイタリア─旅・芸術・精神分析』(平凡社)をはじめ、これまで数々の著書・訳書を発表し、今年も『ネオレアリズモ—イタリアの戦後と映画』(みすず書房)、『最後の審判─終末思想で読み解くキリスト教』(中公新書)を出版するなど精力的に活動。
※本イベントは、学生・教職員のみ学内会場で聴講可とし、学外・一般の方にはオンラインで公開しました。
「アートは世界を救うか?(講師:岡田温司)」講演会レポート
本学の大学院芸術研究科で教鞭をとる岡田が講演のテーマに選んだのは、「アートは世界を救うか?」。実は岡田は、本学ホームページの教員紹介の欄でもメッセージとして〈アートは世界へと目を開く。アートは世界を救う。アートは他者とともにある。アートは幸せをもたらす。アートは自己を磨く〉とのコメントを寄せています。講演会の冒頭では、このテーマについて「ちょっと大風呂敷を広げたような無謀なタイトルになってしまったのですけれども、この騒々しい世の中で、現代社会が抱えているさまざまな問題を前にして芸術に何ができるのか、という問いを立ててみました」と述べました。
実際、現在の社会は気候変動や環境破壊、パンデミックなど、地球規模の大きな危機の只中にありますが、岡田の多岐にわたる話のなかでも印象的だったのが、「アントロポセン(人新世)の美学」というべきものへの言及です。
実際、現在の社会は気候変動や環境破壊、パンデミックなど、地球規模の大きな危機の只中にありますが、岡田の多岐にわたる話のなかでも印象的だったのが、「アントロポセン(人新世)の美学」というべきものへの言及です。
岡田は「カタストロフ下のアート」の一例として、ウクライナ出身であるカナダの写真家エドワード・バーティンスキーの作品を挙げました。その作品群で写し取られているのは人間による資源開発などによって変貌を遂げた風景ですが、一見するとまるで抽象絵画のよう。岡田はバーティンスキーの作品が依拠する美学について、「1950〜60年代にかけてのモダニズムの抽象絵画と、ロマン主義的な『崇高』(サブライム)の美学との結合」だと語り、さらにそこにはパラドキシカルなイメージがあると指摘します。
「その現実はおぞましいのだけれども、それをどう表わすかというと、美しい。つまり『おぞましい現実』と『美しい仮象』といったように、内容と形式のあいだで衝突がある。それはマイナスでもなんでもありません。報道写真であれば、おぞましい現実というメッセージを伝えなければならないかもしれませんが、新しい感覚や感性に訴えるものだとすれば、もっとじっくりと見てもらうと、視覚を長引かせることができます」
ここで岡田は、アリストテレスの「実物を見るのははばかられるものであっても、それを描いた絵を見るのは喜びをもたらすことができる」という言葉を紹介します。恐ろしいけれども美しい、美しいからこそ目を凝らして見てしまう──岡田の「アートは世界へと目を開く」というメッセージにも通じるように、現代社会が抱える負の現実、ポスト・アポカリプス的状況のなかで、芸術が持つ力について感じることができるお話でした。
このあと、講演ではさらに「カタストロフ下のアート」として、社会参加型アート(Socially Engaged Art)や行為主体が非人間のアート(Nonhuman Agency in Art)などの具体的な作品の批評を通じ、芸術の可能性が掘り下げられていきました。そして、最後に「美しく、かつ恐ろしい」太陽を表現したラファエル・ロサノ=ヘメルのインスタレーション作品「Solar Equation」(2010年)に触れて、講演は終了。質疑応答では、学生や教員から熱のこもった感想や質問が寄せられました。
このたびは重層的な考察による刺激的な学びの時間を、ありがとうございました。
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