2000年に日本初のマンガ学科を立ち上げ、現在も日本の大学で唯一、学部規模でマンガ教育を展開する京都精華大学。最近TVドラマ化された「我が輩の部屋である」の田岡りきさんをはじめ、「貧乏神が!」「双星の陰陽師」の助野嘉昭さんや、「日々ロック」の榎屋克優さんなど圧倒的なデビュー実績を誇る。
そのベースとなるのは、現役のマンガ家や編集者が練り上げた分厚く体系的なカリキュラムとプロデビューの機会提供、具体的にはマンガ編集部による出張講評会の多さだ。
10年以上の実績を誇るこの講評会に潜入してみた。
12月は3日間で5社21誌の編集者が来校。参加学生数はマンガ学部生を中心に延べ89名。次々と作品を抱えた学生が会場に入っていく。希望のマンガ誌のブースに着席して講評がスタート。編集者が作品を見る目は真剣そのもの。会場はにわかに熱気を帯びてきた。
早速、『ジャンプスクエア』の講評を受けたばかりの福島奈津実さん(2年生)に話を聞いてみた。
「大学に来ていただけるのはもちろんですけど、同時に複数のプロの編集者に講評をもらえるのは本当にありがたいです。今日は授業の合間に来ました。ゼミの先生が理解してくださっているのも嬉しいです。絵をもっと大きく描いた方が良いということと簡略化しすぎないようにとのアドバイスがとても参考になりました。ゼミの先生からは構図のアドバイスを受けているので、何を改めていけばいいのか、作品がグンと良くなる方向性がみえてきました。将来はマンガ家志望なのでモチベーションが大幅に上がりました」。
『週刊ヤングマガジン』の講評を受けた吉村沙耶香さん(2年生)は「今、描いているお笑い芸人を目指すマンガを見てもらいました。少し無理して16ページにまとめようとしたので、カチカチの構成だったのですが、31ページにする提案や特定のキャラクター目線で固定して展開していった方が良いなどの具体的なアドバイスがとても参考になりました。ヤングマガジンさん含めて2社回りましたけど、同じ指摘をされて納得しました。課題をクリアして、次の講評会もぜひ参加したいです」。
講評会はこちらが考えている以上に刺激的な場のようだ。
レベルが高いので来校するのが楽しみ
編集者の目にはどう映るのだろうか。合間を見て『ジャンプスクエア』編集部の林さんにお話を伺った。
「合同講評会については、私たちも多くの学生に会えるのでありがたいですね。ほかの芸大や専門学校にも参加していますが、京都精華大学は日本で初めてのマンガ学科を作られた歴史やしっかりしたカリキュラムがあるからか、レベルが高いです。プロ志向の学生が多くデビュー実績も非常に多い。加えて精華の学生は量が多いのも特長です。これ、とっても大事なんですよ。作品を通して感じるのはジャンルが多岐に渡っていて、先生方が伸び伸び描かせて個々の良さを引き出そうとされているなあということ。プロのマンガ家を目指す人はぜひ、描く量を増やしてほしいです。具体的に言えば1年に最低4作、できれば6作くらいを目標にしてほしいですね」と終始にこやかにコメントされた。
『週刊少年マガジン』編集部の吉本さんは出版社の立場からもメリットは大きいと言う。
「合同講評会は普通なら少年マガジンに持ってこないような作品にも出会えるので楽しみですね。1年生でも一定のレベルを保っていますが、2年生以降にクオリティが急上昇しますね。カリキュラムに秘密があるのかなぁと思いました」。
『ヤングマガジン』副編集長の桂田さんは「今日は7、8人の作品をみました。この講評会は編集部でも人気でみんな行きたがります(笑)。基礎がしっかりしていて、作品として完結しているからストレスなく読める。これは結構凄いことなんですよ。あと、受け答え含めてちゃんとした学生が多いですね」。
とにかくたくさん、どんどん描いていくことがポイントであることは3人の編集者の共通したアドバイスだった。
最後にこの講評会を企画・担当しているマンガ学部の教員でプロの編集者でもある三河、キャリア支援チームの中出に講評会の目的や教育的な意義を中心にインタビューをした。
1社単独でなくて合同だからこそ得られること
合同講評会という形式から期待される効果は?
三河:作者も編集者も生身の人間ですから当然相性もありますよね。編集者によって好みの傾向なども異なりますから、自分に一番合った担当者と出会うため、比べる機会が必要と思ったことがきっかけです。高くても低くても1社の評価がすべてではないですしね。
中出:東京に比べて京都は地理的なハンデがありますから、学生にとっては大きな支援にもなっていますね。あと、興味深いのは複数の編集者にみてもらっても改善点の指摘は共通することが多くて、プラスの評価ポイントは各社で異なることが多いです。可能性を感じるポイントは人それぞれだなぁと気付かされました。
学生はどんな心境で講評会に臨んでいるのでしょうか?
中出:実はこの告知ポスターは学生に作ってもらっています。大きな期待感はもちろんですが、侍に斬られるみたいな絵からも編集者にバッサリ斬られるのではという潜在的な恐怖感もあるのではと感じています。
ゼミの教員と講評会での指摘とポイントが違ったという声もありましたが、混乱することはないですか?
三河:ゼミ教員はプロのマンガ家の視点で、講評会ではプロの編集者の視点でみるので、学生にとっては結果的に大きなプラスになります。学生も課題として作品をみた教員のアドバイスと商品として通用するか否かの編集者のアドバイスは異なるものということ、そしてどちらもプラスになることは理解していますよ。
一歩抜け出すために。
この講評会実施にあたって大切にされていることは何でしょうか?
三河:参加者は、プロに近いレベルにある学生から授業課題を何とかこなせるようになった学生まで幅広いです。どの学生にとっても教育的にプラスになるアドバイスをしてほしいということを、毎回参加される編集者さんにお願いしています。それは、別の言い方をすればしっかりと向き合ってほしいということ。プロになれる可能性が低ければ、企業就職に進路を切り替えることが必要になりますから、そこはしっかりジャッジをしてもらうことも大切です。
中出:日によっては約半数の学生が編集者と連絡先を交換することもありますが、あくまでもデビューへの第一歩ですからね。編集者ひとりにつき約100人のマンガ家志望者と繋がっているといわれていますので、ここからがスタートですね。
三河:編集者にどれだけアピール出来るかなんですよね。まめに連絡を取ることもそうですが、何よりも量とスピードが運と才能を引き寄せる大切なポイントだということに気付いてほしいです。
多様性が生み出す可能性
スペインの留学生も参加していましたね。
中出:そうなんですよ。最近、留学生の参加者も増えてきているので、留学生のマンガ家が育ってほしいなと強く願っています。日本の学生とは趣向も異なっていて興味深いです。
三河:さらに、この講評会は全学部の学生に門を開いています。過去にもキャラクターデザインコースや日本画コースの学生がデビューし、今も活躍しています。
中出:今回、絵はそんなにうまくはないですが、抜群におもしろいマンガを描く学生が参加していて編集者の中でもかなり話題になっています。三振か満塁ホームランか?って(笑)毎回、色々な可能性やストーリーが生まれますね。
今までにない、新しいタイプのマンガ家が出てきそうで楽しみですね。ありがとうございました。
講評会にじっくり参加、取材して「京都精華大学は可能性の宝庫だ!」と言われる理由を垣間見ることができた。あなたの中にもきっとある可能性を、京都精華大学で開花させてみないか?