左京区北白川のバックス画材内にオープンしたばかりの紙の専門店「KAMI KOBO(紙工房)」で、ポピュラーカルチャー学部の学生が授業で制作したZINE(ジン)が展示・販売されています。ZINEとは、個人でつくる雑誌のこと。発祥は米国といわれており、基本的には冊子のかたちをした印刷物が多いですが、決まったルールはなく、作り手が自由に発信できるメディアとして日本でも注目を集めています。ポピュラーカルチャー学部では、音楽やファッションを他者に届けるための新しい方法を考える訓練のひとつとして、ZINEの制作に取り組んでいます。学部のコンセプト「つくる、届ける、考える」を体現した学生たちの作品が、新しいお店のオープニング商品として選ばれたのは、とても嬉しいニュースです。
制作者である福山なみさん(音楽コース 4年生)、横田奈那さん(ファッションコース 4年生)にお話を聞いてきました。
音楽が好きで、幅広く学べることを魅力に感じて入学した福山さん。実際に、いまは雑誌制作からライブイベント企画・運営、楽曲制作、そして歌うところまで、ひとりで活動しているとのこと。
制作したZINEについてたずねると、間髪入れず「この本は、もう……」と感慨深げに答えてくれました。「入学してから今までで3本の指に入るくらい、思い入れが強いです。テーマになっている“人生の音楽”はずっとやりたかった内容でした。わたしが担当したページは何回も書き直して、結局、最初に考えていたものとはまったく違う文章になりました」。冒頭の文章は3ページ。その後に3ページ、おすすめの音源紹介が続きます。合計6ページのなかに、音楽(とくに「ブルーズ」)への濃密な愛情が感じられます。
もともと日常で着る服をつくりたい思いがあり、入学前に相談した教員(ファッションコース蘆田裕史)から聞いた「ものごとについて根本から考える」ことに面白さを感じて入学した横田さん。いまはこどもたちを対象にした芸術教育に関心が深く、本学が実施する小学生向けのワークショップ講座「こどもガーデン」の人気講師でもあります。
ZINEでは「一冊の本から考えるファッション」というテーマで制作。難しかったことは、「やりたいことをことばにすること」でした。入学してから哲学に興味を持ち、紹介したいと思ったものの、自分の頭の中にある理想とできあがってくる原稿が大きく違って四苦八苦。デザインを担当した友人には、「何をどう伝えたいか」、情報の優先順位がうまく言えず、何度もやり直しをしたそうです。
印象深かったのは、ふたりとも「自分は天才じゃない。だから工夫して、どう勝負していくか、を日々考えているんです」と言っていたこと。指導教員(ファッションコース:西谷真理子、音楽コース:岡村詩野)はそれぞれ、音楽、ファッションシーンの第一線で活躍してきた実践派。アドバイスには経験に裏打ちされた独自の理論があり、だからこそ信頼できるそうです。また、他者と協働して誰かに思いを伝えるZINEの制作は、これからも音楽・ファッションとかかわっていくうえで、自分なりのやり方を見つける大きな手助けになったようです。
最後に、関連する授業をのぞいてきました(担当教員:安田昌弘、岡村詩野)。この日は「チームでZINEの見開きページをつくる」という課題発表の日で、福山さんたちの後輩にあたる音楽コース2・3年生が、音楽を届けるあたらしい方法を模索していました。
教員からは、レイアウトの工夫や情報の読ませ方について具体的な指導が入ります。厳しい言葉もありながら、最後は「目の付け所が面白い。1週間という短い期間でアイデアをまとめ、紙面にまで落とし込めたのはたいしたもの。」とまとめられました。褒められたものの、学生たちは「もっとできたかも……」という、ほろ苦い悔しそうな顔をしていて、それがとても印象的でした。今日もこの場所で、アイデアが生まれては磨かれていきます。