2019年度卒業・修了生のみなさんへ 学長祝辞

ウスビ・サコ学長 祝辞

みなさん、こんにちは。AWNICHE, AW NI SEGUE
 
ご卒業おめでとうございます。本来なら皆さんと一緒に居られる場で、皆さんと向き合う形でお祝いの言葉を述べたかったです。しかし、残念ながら、社会情勢から、このような形になることを、お許しください。
 
今年の卒業・修了展、「京都精華大学展2020」を拝見させていただいた時、「個」「個人」「個と社会」「私」などにまつわる作品が多かったように記憶しています。他者と出会うことは自分を再発見することにつながります。異文化に接した時、当たり前だと思っていたことが、実はそうではないと気付くはずです。京都精華大学の学生は全国から集まっております。さらに、グローバル化が進む中で留学生が増えてきています。彼らは「留学生」というラベルを貼り付けておしまいの存在ではありません。我々の大学にやってきている留学生は人格を持った大人の人間です。また、それぞれに習慣や文化、価値観を持っている「個人」であり、特定の国の代表では決してありません。
京都精華大学は2018年にダイバーシティ宣言をし、ダイバーシティを次のように定義しています。「ダイバーシティ、つまり多様性とは、人種、性別、宗教、性的指向、社会経済的背景、および民族性など、個人と個人の間に存在する違いを指し、その個人間の違いを認め合うことが大切であるとされています」。つまり、われわれ京都精華大学では、日常のなかにある“異文化(他者の文化)”に気づくことが重要であり、その他者の文化に触れ、その他者と共生することが求められています。
 
今年度、私は様々な講演会でグローバル人財について話をする機会がありました。「グローバル人財は自分の足元をしっかり見つめ、身近な“異文化”を理解することができる人で、真のグローバル人財を育成するには、自国の文化と向き合うことが重要である、と考えています」ということを繰り返し話してきました。このグローバル社会の中で、人間はどう生きるべきか、不確定要素と不安とが尽きません。卒業・修了展を拝見した時、その不安をどのように解釈し、理解し、さらには乗り越えていくかが個々の学生の悩みになっていることがわかったような気がしました。世界が今、直面している問題はまさにこの問いであります。この世界情勢の中で大切なのは、多角的に情報を収集し、個人の責任で判断して行動することです。今、新型コロナウイルスが世界を脅かし、世界秩序すら乱れてきております。なぜ、このように、世界がパニックに陥ってしまっているのでしょうか。
 
さて、本日を持ちまして、みなさんは京都精華大学を卒業・修了することになります。世間でいうと、明日から社会人です。みなさんがこれから属するであろう社会は決して単純なものではなく、必ずしも幸せをもたらしてくれるものではありません。しかし、みなさんはこの大学の理念を体現し、身体化した人であるはずです。京都精華大学で身につけた教養知をもとに、日本や世界の不安に向き合い、この社会をより良いものに変革する十分な力がついていると確信しています。京都精華大学の卒業生・修了生は、世の中の表面的な変動には決して左右されません。
 
みなさんの進路は、会社員、公務員、作家、クリエーター、大学院生などさまざまです。京都精華大学はいわゆる就職予備校ではありません。一年生から行われたキャリア教育で「好きを仕事にしてください」と教えられてきたはずです。京都精華大学の初代学長、岡本清一は、「大学は学問と教育と深い友情とを発見する場所である」と述べています。また、京都精華大学の学位授与方針と教育課程の編成・実施方針では、それぞれにおいて、学問と教育だけではなく、「友情」が重要な柱として定められています。京都精華大学には、世界中から「個性」のあふれる多様な学生が集まっています。みなさんは、ともに文化・芸術を学び、深い友情を培い、世界をより良い居場所にするため、協働できる人間へと成長してきました。大学共同体の構成員としての自覚の下、各自が明日への成長のビジョンを、友人たちとともに創り上げてきたことと信じています。
私が昨年から担当している授業「自由論」では、学内外の有識者をゲストとしてお招きしています。最終授業のゲストには人文学部客員教授の内田樹先生を、お招きしました。内田先生は、学生の「友情関係」と「自分らしさ」について学生たちに語りかけました。友情関係においては、みなさんには役割が与えられ、期待された役割を演じ続け、いつの間にか、それが自分の個性や自分の「らしさ」と思い込み、他者によって規定された自分から解放できなくなっているのではないかと指摘されました。学生諸君が自分たちで自分たちを不自由にしているにちがいないというお話でした。友情や他者との付き合い方について次の二人の言葉をみなさんに送ります。

- 岡本太郎 –
友達に好かれようなどと思わず、
友達から孤立してもいいと腹をきめて、
自分を貫いていけば、
本当の意味でみんなに喜ばれる人間になれる。
 
- スティーブ・ジョブズ / Steve Jobs –
他人の意見で
自分の本当の心の声を消してはならない。
自分の直感を信じる勇気を持ちなさい。
(Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice.
And most important, have the courage to follow your heart and intuition.)
 
 
みなさんが、これから出ていく社会の中に自分の立ち位置を確立し、そして「個」の自分の進むべき道を見つけるために大学で様々な知識を身につけたはずです。であれば、今日この日、みなさんは自分と真剣に向き合い、自分が何者で、どのような価値判断を下す人間なのか、様々な活動、試行錯誤、失敗と成功から学んだ内容を通して確認できているはずです。この価値判断を意識せずに下すことができるそのことが、みなさんの「個性」や「自分らしさ」であり、この大学でみなさんが手に入れた自分らしさであって、それこそがみなさんを自由にする道やツールなのです。これは頭で考えて実現できるものでもないし、実現しようと計画できるものでもないと考えています。
 
- ニーチェ / Friedrich Nietzsche –
世界には、きみ以外には
誰も歩むことのできない唯一の道がある。
その道はどこに行き着くのか、
と問うてはならない。
ひたすら進め。
(There is only way no one can walk besides you in the world.
A field’s reaching where or, you are not supposed to care. Advance earnestly)
 
みなさんは、これから夢と希望を持って未知の社会へと旅立ちます。社会に使われるのではなく、社会を変革することに心をくだいていただきたいと思います。様々な困難に直面するかもしれませんし、失敗することもあると思います。しかし、それを乗り越えられれば、さらなる成長を成し遂げることができるはずです。
本日、皆さんがめでたく卒業、修了できたのは、卒業・修了要件の単位を揃えただけではなく、みなさんの日々の生活と出来事の蓄積、学問と深い友情とを発見したたまものだと信じています。人間形成を成し遂げた場所である京都精華大学は、みなさんにとって、故郷とも言えるでしょう。この大学は一人一人の汗と涙、悲しみ、笑いと喜びによってできた共同体です。みなさんがいつでも帰ってこられる故郷だと思ってください。皆さんの訪問を待ち望んでいます。
 
今年度、私にとって多くのことを学んだ出張がありました。ジャマイカへの出張はその一つです。ジャマイカは、中央アメリカ、カリブ海の大アンティル諸島に位置する立憲君主制国家であり、英連邦王国の一国であります。ジャマイカ出身の教員がJETプログラムや学校のALT(外国語指導助手)を務めております。
ジャマイカは、1962年に独立を果たしましたが、その過程で、社会格差・人種差別と闘い、自由と人権を求める様々な運動がありました。その一つはアフリカ回帰運動を基本とするラスタファリです。そのラスタファリのひとつがレゲエ音楽です。レゲエは、2018年にはユネスコの無形文化遺産に登録されました。レゲエのレジェンドの一人として、シンガーソングライターのボブ・マーリーがいます。ボブ・マーリー自身は混血でありながら様々な苦難を乗り越えて、大切な言葉を残し、36歳でこの世を去りました。
 
最後にボブ・マーリーが残した言葉をいくつかみなさんに送りたいと思います。
 
 
Get up, stand up, Stand up for your rights.
Get up, stand up, Don’t give up the fight.
「起き上がれ!立ち上がれ!闘うことをやめるな!」
「起き上がれ!立ち上がれ!権利の為に立ち上がるんだ!」

We sick an' tired of-a your ism-skism game -
Dyin' 'n' goin' to heaven in-a Jesus' name, Lord.
We know when we understand: Almighty God is a living man.
「死んだらイエスに召され天国へ行く
そんな安易なたわごとはもう沢山俺達はみんな知っている
全能の神も所詮はただの人間さ」
  
Love the life you live. Live the life you love.
自分の生きる人生を愛せ。自分の愛する人生を生きろ。
 
 
Aw ni baara ! Aw ni seguèn!
K’an bèn sòòni ! Ka nyògònye nògòya !
以上、私の祝辞とさせていただきます。
ご卒業おめでとうございます。

2020年3月
京都精華大学・学長
ウスビ・サコ

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京都精華大学 広報グループ

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※取材いただく際は、事前に広報グループまでご連絡ください。

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