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2022年1月13日(木)アセンブリーアワー講演会「特別だけど、特別じゃない、デザイン(講師:髙田 唯)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで54年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
 
 
2022年1月13日(木)は、第一線で活躍するグラフィックデザイナーで、本学デザイン学部客員教員の髙田 唯によるアセンブリーアワー講演会を開催しました。題は「特別だけど、特別じゃない、デザイン」とし、髙田が、自身の生い立ちやこれまで手がけた仕事、大学での研究活動などを通して、デザインの特性や本質について話しました。
 
※本イベントは、学生・教職員のみ学内会場で聴講可とし、学外・一般の方にはオンラインで公開しました。

「特別だけど、特別じゃない、デザイン(講師:髙田 唯)」講演レポート

高田は2006年、20代半ばにデザイン事務所「Allright Graphics」を設立し、紙媒体からWebまでさまざまなデザインを手がけてきました。強い印象を放つ、髙田ならではの配色やレイアウトは、常に注目されています。また、髙田はデザインの仕事のかたわら大学で教鞭も取り、SNSでの活動や展覧会など、研究的な取り組みも続けています。
始めに、1980年に髙田が生まれてから2000年代に桑沢デザイン研究所に入り、デザインの人生がスタートするまでを語りました。グラフィックデザイナーの父と美大卒で区議も務めた母。子供の頃から多忙でほどんど家にいなかったし、世間から見ると少し風変りな所もあったが両親を好きだった。それは、彼らがいつも責任感を持って一生懸命だったからかもしれない。多種多様な同級生と机を並べた定時制高校時代での経験は、今の自分の基盤となっているのではないだろうかと、髙田はふり返ります。
続いて、自身の考えるデザインの特性について、具体的な事例とともに説明がありました。一つ目は「わかりやすくすること」です。クリミア戦争の戦地で看護にあたっていたナイチンゲールがエリザベス女王へ感染症対策の必要性を訴えるために、戦地での死者数や死因を視覚化して見せた「コウモリの翼と薔薇の花」という名のダイアグラムなどが例示されました。「気づかせるようにすること」もデザインの主要な役割の一つだと髙田は言います。道路標識、緊急地震速報の警報音や、踏切の黄色と黒の配色などもそうだし、ガス漏れを教えるために人為的につけられた臭いなども「嗅覚に関するデザイン」ではないだろうかと、問いました。

最後は、気づかせることと相反する「気づかれないようにする」デザインについてです。行き届いた清掃によって空間を心地よくすること、ユーザーがつい押してしまうように配置されたボタン、マネジメント業務なども「深部から補う」実は重要なデザインだと思うと、述べました。
中盤では、自身の表現を確立していくまでの経験を丁寧に語りました。学生時代に観て感動した「日宣美の時代」展、影響を受けつつ模倣を繰り返した杉浦康平氏、葛西薫氏、スイスのグラフィックデザインなど、図案や当時の自作も取り上げながらいきいきと話しました。展覧会を機に機材一式をもらいうけ、関わることとなった活版印刷ではさまざまな工程に携わる人と出会い、デザイナーから印刷を受注する側に立ったのも、貴重な経験だったと言います。

そして、仕事で十余年の経験を経てデザイン疲れしたように感じていた時期に、髙田は、街角の案内板や看板の、作為的ではないデザインに惹かれました。そこに美しく揃えようとすると作り出せなくなってしまうようなものを発見し、面白さを見い出していく過程では救われたように感じたそうです。髙田はそれらを「天然のグラフィックデザイン」と呼び、受けた影響を自分のデザインに落とし込んでいきました。
現在教鞭を取る、東京造形大学での髙田ゼミでは、見えないものを見ようとすることを、最大のミッションにしているそうです。授業で実施しているパック飲料の底面や成分表を模写する、噛んだチューインガムを彫刻に見立てる、スポーツ新聞を破片で切り出して独特の配色や構成を発見するなどのユニークな試みが紹介されました。その中で髙田は、美しくないものの中にも可能性があると信じている。まだまだ発見されていない新しい世界がニョキニョキと出て来るかもしれないと話しました。
終段で髙田は、デザインは「気づくこと」と「観察する」ことが重要だと語りました。「デザインが未経験のように思っているみなさんでもデザインをしているかもしれない。バラバラになっている靴を揃えること、ドアをゆっくりと閉めること、季節の花や食べ物に反応することや、自分の体調に耳を傾けてあげるのも、みんなデザインと呼べてしまうかもしれません。この2つの軸を意識していただけたらうれしい。」そしてみなさんには「肯定的思想」を持って欲しいと続けました。ここで髙田は、料理研究家の高山なおみ氏の次の言葉を引用しました。

“今日は何が食べたいか自分の心と相談しながらコンビニでじっくりお弁当を選ぶのも料理だと思う。”

「コンビニのご飯って虚しく感じたり、自分を責めてしまうようなところがあると思いますが、ずっと料理と向き合っている人がこういうことを言ってくれたら助かるなって思いました。こんな発想ができるって、なんて豊かなんだろう。こういう思想は戦争も遠ざけるんじゃないかなと思います。みなさんが今もし何かと戦っているならば、この言葉を思い返していただけるとうれしいと思い、最後に伝えさせていただきました。」と、結びました。
 
 
私的な経験と具体的な事例に基づき、デザインを解き明かしていく講義は明快で、力強く伝わるものでした。また、さまざまな人や物事との出会いを受け入れ、前向きに表現に向かっていく髙田の言葉は多くの学生を勇気づけたように思います。

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