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11月24日(木)アセンブリーアワー講演会「遊びながら考える(ゲスト:森田真生氏)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで54年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
 
 
2022年11月24日(木)は、独立研究者として京都・東山の麓にある研究室を拠点に活動を行っている森田真生さんをゲストに迎え、アセンブリーアワー講演会を開催しました。森田さんは主に数学をテーマとした著作・講演活動などを行い、2015年刊行のデビュー作『数学する身体』(新潮社)で第15回小林秀雄賞を、2021年刊行の『計算する生命』(新潮社)では第10回河合隼雄学芸賞を受賞。そのほかの著書に『数学の贈り物』(ミシマ社)、『僕たちはどう生きるか』(集英社)、絵本『アリになった数学者』(絵・脇坂克二/福音館書店)など。2022年9月には最新刊となる『偶然の散歩』(ミシマ社)を発表しています。

 
※本公演会ではオンライン配信は行わず、会場での対面聴講のみ開催しました。

「遊びながら考える(ゲスト:森田真生)」講演会レポート

今回、森田さんが講演会のテーマに選んだのは、「遊びながら考える」。新型コロナウイルスの感染拡大以降、子どもたちと一緒に遊ぶということが生活の中心になり、「遊びに満ちた日々を子どもたちと一緒に過ごしていくなかで、そもそも遊びというものは何なんだろうか、遊ぶということはどういうことなのか、それは思索するということと、どう関係するんだろうか、みたいなことを考えはじめるようになった」と言います。
ここで森田さんが議論の起点として据えたのが、文化人類学者であるデヴィッド・グレーバーの著書『The Utopia of Rules』(邦題『官僚制のユートピア』)。この本のなかで論じられているのは、「ゲーム(game)」と「プレイ(play)」の違いについて。平たく言うと、ルールを守らなければ成り立たないのがゲームなのに対して、ルールを破り、逸脱し、ときに新たにつくり直していくこともできるのがプレイです。

わたしたちは、さまざまな暗黙のルールや規則に従って生きています。たとえば、授業中に立ち上がり、歌を歌ったり踊りだす自由があるはずなのに、そうはせずに、座ってじっと話を聞く。こういう場面ではこう振る舞うべきという規範を内面化して行動しています。ルールが明示された閉じた世界のなかで勝敗や競争の観念が入り込んだ義務教育の学校というのは「ゲーム的空間」といえるでしょう。
一方、ルールや規則を逸脱するプレイは「何が起こるかわからない」ため、大きなリスクをはらんでいます。つまり、この社会がゲームを必要とするのは「プレイに対する恐怖心」があるからというわけです。
 
そう考えると、ルールから逸脱せず、ゲームのなかに閉じこもって生きていくことは安心できることであるようにも思えます。ですが、森田さんは「僕たちがいま生きている時代は、人間が経験したことがないレベルで、ゲームの根本的なルールが変わっていってしまう時代なんじゃないかな」と言います。

そのひとつの事例が、前出のグレーバーとデビッド・ウェングローの共著『The Dawn of Everything: a New History of Humanity』(未翻訳)にあります。この本のなかでグレーバーらは、正統性をもって語られてきた人類史の物語が、その基本的な構造において根拠がない、あるいはしばしば根拠に反したものであることを文献研究と最新の考古学などによって明らかにし、現代のわたしたちが想像するよりはるかに複雑かつ多様な社会制度に挑戦していた往古の人類の姿を描き出しているそうです。
「古代の人類は、僕たちよりもずっとプレイフルに挑戦的に、新たな制度の可能性を模索するような人たちだったのではないか。現代のように、単線的な制度進化の物語の外側を誰もが想像できなくなってしまっているというのは、人類史上、とても新しいことなのではないか。そういう可能性を彼らは提示しています」(森田さん)
いまは「地球環境そのものが人類史のなかで稀有なレベルで変化していく時代」にあります。森田さんは「そういう状況は既存の制度の地盤を揺さぶる大きな力。既存の制度の地盤が揺さぶられているときにはじめて、他の制度を探索する、他の制度を提示するということがアクチュアルになるんですね。こういうときには、生真面目にゲームに耽ることよりも、プレイフルな姿勢に切り替えていく生きていくほうが実際的になる」と言います。
 
ルールの外側に立ったとき、果たしてわたしたちにはどんな世界が見えるのか──。そのことを考えさせられた、深い思索にもとづいた森田さんのお話。そして、堅苦しさが一切ないまま知の世界を縦横無尽に駆け回るような講演は、まさしく「遊びながら考える」時間となりました。
講演後の質疑応答の時間には、学生たちからも質問が寄せられました。歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』に衝撃を受けたと言う芸術学部の学生は、「その衝撃をなかなか自分の作品に表せない」と悩みを打ち明けると、森田さんは「無理に力んで自分自身のアウトプットに変換していく必要はないかもしれない。体質の合う食事は無理なく体内に吸収され、分解物が排泄されていくように、『体質に合う』思考からは自然と何かが生まれてくる。自分の体質に合う思考や思考法を見つけることが大切」とアドバイス。
また、「普段から映画や演劇を観ている人たちはなぜ叫ばず、立ち上がって一緒に参加しないのかと疑問に思ってきた」と感想を語った学生が、人がルールを習慣化させてしまう理由について質問。森田さんは「混沌と不確実性を願っている人はいないので、予測可能な秩序をつくりたいという願いは非常に深く生命に内在しているもの。だから、支離滅裂な世界というのは学校教育を取っ払ったぐらいでは実現しないでしょう。ですが、学校教育で自明とされている規範の外側には、あってもいいかもしれないさまざまな世界があることは間違いない。学校教育が自明としている規範は、150年程度しか歴史がない。当然変わっていいし、変わっていくべき面が多々あるのではないか」と語りかけました。
 
森田さん、刺激と示唆に富んだお話をありがとうございました。

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