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10月26日(木)京都精華大学創立55周年記念・マンガ教育50周年 アセンブリーアワー講演会「マンガと芸術って、どうよ~『自由の学び舎』で考える~(鼎談:こうの史代×しりあがり寿×吉村和真)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで55年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。また、1973年のマンガクラス開設から、今年度で丸50年となりました。
 
そこで、2023年10月26日(木)、京都精華大学創立55周年とマンガ教育50周年を記念し、マンガ家のこうの史代さん、しりあがり寿さん、本学マンガ学部教員である吉村和真の3人で鼎談を行いました。
 

「マンガと芸術って、どうよ~『自由の学び舎』で考える~(鼎談:こうの史代×しりあがり寿×吉村和真)」レポート

(上、左から:こうの史代さん、しりあがり寿さん / 下:教員・吉村和真)
2023年、京都精華大学は開学55周年を迎えると同時に、マンガ教育をスタートしてから50周年を迎えました。1973年に美術科デザインコースにマンガクラスを開講し、2006年には日本初のマンガ学部を設置。半世紀にわたってマンガ教育をリードしてきました。
そして、記念すべき節目に実施された今回の講演会は、『夕凪の街 桜の国』や『この世界の片隅に』などの作品を世に送り出してきたこうの史代さん、『弥次喜多in DEEP』などのストーリーマンガや朝日新聞夕刊に連載中の4コママンガ「地球防衛家のヒトビト」で知られるしりあがり寿さんという、人気作家のお二人が登壇。本学マンガ学部教員でマンガ研究を専門とする吉村和真が進行役を務めるかたちで鼎談が行われました。その鼎談のテーマは、「マンガと芸術って、どうよ?」。
しりあがりさんは全国3カ所の美術館で個展「しりあがり寿の現代美術 回・転・展」(2016年)を開催したり、葛飾北斎の作品を独自に解釈したパロディ作品を発表したりと、アートとも深い関わりを持ってきました。
また、こうのさんは、広島市のおりづるタワーで実施された、戦後100年となる2045年への願いをアートで表現する「ウォールアートプロジェクト」に参加(2022年)。大きな壁をキャンバスに梵字の般若心経とイラストを描きました。

このように、マンガ家としてマンガ作品を発表するだけではなく、アートとしての作品づくりにも取り組まれてきたお二人。鼎談では、お二人の作品をじっくりスクリーンで読んだ上で、様々な話題に切り込みました。その中で、しりあがりさんから「こうのさんにとっての漫画と芸術の違いは?」という質問が投げかけられました。この質問に、こうのさんはこう答えます。
(「ウォールアートプロジェクト」(2022年)での作品と、説明をする こうの史代さん)
「ずっと私はマンガは芸術だと思い、描いてきました。そうではないと思っている人にはそう思ってもらえるようなものを描かなくてはいけない、と。では、芸術とは何かといえば、心に何かを残すものではないかと思うんです。だから、他の人が『これは芸術だ』って言っても自分の心に残らないものは芸術ではないのかもしれませんし、逆に誰も芸術だと言わなくても、自分の心に残ればそれは芸術なのかもしれません」
 
逆に、こうのさんからしりあがりさんへは、「マンガの他にも多様な活動をされていますが、他の表現手段と比べて漫画の優れている所、劣っている所はどういう点だと思われますか?」という質問が。すると、しりあがりさんは「僕はマンガはすごく優れていると思うんです」と言い、こう続けました。
「マンガというのは基本的に小説や映画などと同じように架空の物語世界をみなさんの頭の中に届ける役割を持っていますが、マンガはすごい速さで情報を人の頭にぶち込んでしまうでしょう? 動画を2倍速で観るなんて無理をしなくても、マンガの単行本は30分ぐらいで読めてしまう。次から次へといろんな物語が出てきて、それを猛スピードで読者に届けていく。この性能たるや、100トントラックが100キロの速さで突っ走っているようなもの。それぐらいマンガというのはすごいメディアになっていると思うんです。
 逆に劣っている点は、そのトラックに何を載せているのかについて、ちょっと無批判すぎるのではないかと。規制をしろとは思いませんが、これだけメディアとして影響力が大きくなっていることを考えると、内容に対して無批判というわけにはいかなくなるのではないかなと思います」
 
さらに会場での参加者との質疑応答では、お二人にたくさんの質問が寄せられました。例えば、「他の作品からのインスピレーションを受けることについて、どう思いますか?」という質問では、しりあがりさんからこのような回答が。
(しりあがり寿さんが、北斎の浮世絵を大胆にアレンジした書籍『しりあがり×北斎 ちょっと可笑しなほぼ三十六景:しりあがり寿作品集』の作品画像(一部))
「人の想像力って案外似ていて、何か新しいことなんてできないですよね。何かやると、遡ったら『あれと似てる』とか『もうすでに誰かがやってた』とか、そういうものばっかりなんですよ。僕はそれが本当に嫌で、デビューしたころは全部パロディをやっていた。毎回毎回違う絵柄で描いて、それでも『これはしりあがりって人が描いた』とわかってもらえたらそれが本当のオリジナリティだ、って。要するに、消しても消しても残っちゃうものがあればオリジナリティだなと思ったんですね」
 
また、マンガの創作に打ち込む学生に対し、こうのさんはこんなお話をしてくださいました。
 
「私は作品が出来上がって『良かったよ』と言われることもうれしいけれど、いちばんうれしいのはやはり、魂が入るような瞬間がある時なんですね。マンガの原稿にしてもイラストにしても、ただの汚い紙でしかないと思えて、どうしようって必死でやっているうちに、ある時、ふっと魂が入ってマンガになるんですよね。そういう時に、『ああ、やってよかった』と思えるんです」


この鼎談のテーマの副題は「『自由の学び舎』で考える」でしたが、じつは「自由の学び舎」というのは、こうのさんが精華のキャンパスの風景を描き下ろしてくださった「自由の学び舎—作品を超えた出会い—」という水彩画からとられたものです。
こうの史代さんによる描き下ろし水彩画 「自由の学び舎—作品を超えた出会い—」 解説文(222KB)


これからも「自由の学び舎」であり続けようとする精華で語られた、表現や創作の喜び、そしてマンガと芸術の可能性──。イベントの予定時間を超えてメッセージを伝えてくださった、こうのさんとしりあがりさん。数々の貴重なお話を、どうもありがとうございました。

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