「大学で何をやっているんですか?」「何を教えているんですか?」とは、よく聞かれる質問です。他の教員の方々より多いかもしれません。それは私の仕事の範疇がとても「あいまい」だからだと思います。職業としては「編集者」と名乗っているのですが、メディアを問わず「編集」しているからか、一言で説明することができません。したがって、私のゼミも一言で説明することが難しいゼミになっています。
それでもこのゼミを一言で説明する必要ある場合には、「 “その他” のものを生み出すゼミ」ということにしています。わけがわからないかもしれませんが、 “その他” です。世の中で “その他” のカテゴリーに入れられるものに着目し、観察・分析して、なにかをこしらえるゼミです。
ゼミの詳しい内容の前に、「メディアデザイン専攻」そのものについて少し話します。この前提がないとわからないと思うので。
ものすごくザックリいきます。
「メディアデザイン専攻」は、24年度入学まで「イメージ表現専攻」と呼ばれていた専攻を母体に新たに生まれた専攻です。専攻があつかうものが「イメージ=視覚表現」だけの範疇には収まらないため、新しい名称に変更されました。
「メディアデザイン専攻」は、「メディア」と「そこで表現されるなにか」をまるっと作る専攻です。メディアそのものの発明、メディアの新しい使い方、と、それを使った表現を同時に作っていきます。担当する教員も、メディアアート、映像、グラフィックデザイン、ゲームなどを中心にしながら、単純な領域区分を超えた活動をしています。
このゼミでは、アウトプットの形式を問いません。映像を専門に勉強したいと考えている人は、常に映像をベースに考えてもよいですし、毎回手法を変えてもよいのです。
では、実際に伊藤ガビンゼミではどんなことをやっているのか。24年度3年生ゼミの最初の課題として、「時間操作」というテーマで作品制作を行いました。「時間を操作する」ということはどういうことなのかをそれぞれが考え、どのような形で作品化できるのか研究し、展示できるところまでを数週間で実施。
このゼミでは、アウトプットの形式を問いません。映像を専門に勉強したいと考えている人は、常に映像をベースに考えてもよいですし、毎回手法を変えてもよいのです。
全部は紹介できませんが、ゼミの特徴として説明したいものをいくつか挙げます。
例えばパクヒョソンさんは、当初アニメーションの作品を企画し、イメージボードを描き、ビデオコンテまで猛烈なスピードで制作しました。その内容は、スポーツの試合の中で体感する1秒を描く内容でした。
ところが、発表までの間にアニメーションを完璧に仕上げることが難しいと判断したパクさんは、急遽企画を変更。手描きのアニメーションから手法をガラッと変えて、Touch Designer(ビジュアルプログラミング言語)を仕様したインタラクティブな作品に取り掛かりました。ある単位の時間の映像をサンプリングし、その映像を素材にモザイクを作って「鏡」のようなものを制作しました。
この切り替えには、驚きました。
このゼミでは、多くの人が映像作品を作っています。
「時間操作」のテーマの場合は、固定カメラで電車を捉えて、時間操作によって電車が延々と通り過ぎ続けたり、速度が変わったり(田中僚一さん)。
1秒単位のクリック音に合わせて歩く足元をひたすら撮影することで、そこに微細なドラムを演出したり(末岡優芽さん)。
卵を投げるという不可逆な行為の映像を、モーショングラフィックを組み合わせて時間を操作することで、ありえない世界を作ったり(森田菜乃夏さん)。同じ映像というフォーマットでも、アプローチはさまざまです。
また、映像のように「動かない物」で時間操作を表現しようとした人もいました。
濡らした紙を干して乾いていく過程を、画像化してプリントして展示した作品(西尾優太さん)。時間が固定されています。
濡らした紙を干して乾いていく過程を、画像化してプリントして展示した作品(西尾優太さん)。時間が固定されています。
錯視を使って風景をボックスに閉じ込めた作品(下野南那さん)。動いていないのに、見ている側に時間が生じるというアプローチですね。
このように同じテーマでも解釈によって、表現手法を変えていくのが、このゼミの特徴のひとつです。表現すべきナニカがあって、そこに向かって、調査したり、試作したりしながら、なんとか形にしていくことを繰り返していきます。その時、既存のカテゴリーにスポッと嵌まるものよりも、どのカテゴリーからもはみ出してしまうことを評価します。それが “その他” 性ですね。新しいものが生まれてくる時、最初はいつも “その他” なのですから。
メディアデザイン専攻
メディアデザイン専攻では、メディアそのものを新しくデザインしていきます。視覚表現の基礎となるビジュアルデザイン以外にも広く知識を身に付け、アイデアを生み出す力を磨きます。同時に、プログラミング、企画・編集、グラフィックデザイン、映像制作、電子工作、ファブリケーション、インタラクティブな表現技法など、表現を支えるさまざまな技術の構成要素を学びます。そこから実際にトライアルを繰り返し、発表し、修正し、練り上げていくのも特徴です。
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